◆平成23(2011)年10月5日 産経新聞
難しい帰宅判断、生かされなかった虐待情報 大阪・西淀川の7歳男児死亡事件
大阪市西淀川区で今年8月、小学2年の藤永翼君(7)を死なせたとして、傷害致死容疑で継父と母親が逮捕された虐待事件をめぐり、市こども相談センター(児童相談所)や学校などの関係機関が一家と深く関わっていながら、虐待事例として共通認識ができなかった実態が、再発防止に向け市が進める検証作業で浮かび上がっている。市は虐待を重要課題と位置づけ、予算や人員を投入してきたが、翼君の命を守れなかった。事件を防ぐには何が必要だったのか…。
○福祉司1人で判断
大阪府警によると、事件当時、翼君はやせ細り、体には多数のあざやたばこを押しつけたような痕があった。大阪市によると、翼君を担当した児童福祉司は、同センターでの勤務3年目。優秀な職員と評価されていた。ただ、関係者は「育児に前向きだった母親を、担当者が過剰に信用しすぎてしまった」と指摘する。翼君は生後3カ月で乳児院に入所。その後ずっと施設で暮らしていたが、母親が引き取りを強く希望した。担当者は、翼君と母親らを一緒に何度も外出・外泊させ、様子を見た上で「家庭に引き取っても大丈夫」と判断。翼君は今年3月、家に戻った。虐待を理由に施設に入っている子供を家庭に帰す場合は、妥当性を判定するため関係者で「援助方針会議」が開かれるが、翼君の入所理由は養育不能で虐待ではなかったため、会議は開かれず、担当者が1人で判断した。市は、今回の事件を教訓とし、今後は虐待事例かどうかにかかわらず、引き取りを希望する全ケースで会議を開く方針を決めた。
○「虐待」伝わらず
今回の事例で、虐待に最初に気づいたのは小学校だった。あざが見つかり、翼君に聞くと「たたかれた」と答えた。事態を重く見た学校側は、校長自ら家庭訪問し、両親に対し暴力をふるわないよう警告。経緯をセンターに報告した。 しかし、センター側の記録には「ほっぺが赤くなっていた」と記しているだけで、あざなどの記載はなかった。センター側が母親を信用しすぎた結果「虐待」と扱わなかったという。センターの職員の1人は「家族と長くかかわってきた職員ほど相手を信用してしまう傾向にある。だからこそ、複数で判断にかかわることが大切だ」と話す。また、母親は事件発覚以前、子育ての悩みを翼君の担任教諭に相談していたほか、7月にはセンターにも「私の体調も悪いし、いっぱい、いっぱい」と“SOS”ともいえる電話をしていた。市の担当幹部は「ここで翼君をいったん施設に戻し、母親が落ち着くのを待つ手もあった。虐待を防ぐチャンスはあったはずなのに…」と悔やんでいる。
◇
「仏作って魂入れずだ」。翼君の事件が発覚した直後、大阪市の平松邦夫市長は緊急会議でいらだちをみせた。過去の虐待死事件を教訓とし、「児童虐待ホットライン」を開設したり、緊急性が高いケースでは消防を活用する仕組みを作ったりするなど、虐待対策に力を入れてきたにもかかわらず、有効に機能しなかったためだ。
全国的に見ると虐待案件は年々増加する一方、児童相談所の職員は不足している。虐待相談件数は平成2年度の約1100件に対し、22年度は実に50倍の5万5千件(速報値、東日本大震災で被災した宮城、福島両県を除く集計)。職員数が相談件数の増加に追いつかず、負担は大きい。大阪市でも、相談件数は21年度の1606件に対し22年度は1976件に増加。ただ、市は21年度に109人だった市こども相談センター職員を23年は154人に増加させるなどの措置を取ってきた。センターによると、職員やケースワーカー1人あたりの虐待対応件数は、それでも年約140件にのぼる。同じ相談者に複数回応対するケースや結果的に虐待でなかったケースもある。ケースワーカーは、1人平均60人の施設入所児童も受け持っており、業務は相当ハードだ。市は近く、センターで情報の入力作業や施設退所児童の状況確認などを行う嘱託職員を3人増やし、正規職員が家庭訪問など詳しい状況把握が実施できるよう態勢を強化する。翼君のケースで学校とセンターの情報共有がうまくいかなかった点を踏まえ、児童虐待に関する通報は全てホットラインに一元化するなどの対策も取る。センターの担当者は「業務量は膨大だが、適切な対応ができるよう取り組みたい」と話した。
◆平成23(2011)年10月5日 中日新聞
【愛知】地域ボランティア育成 児童虐待防止策で名古屋市発表
名古屋市中区錦2のマンションで6月に母親が6カ月の長女を死なせた事件で、再発防止策を検討してきた市は4日、児童虐待の予防対策を発表した。地域のボランティアが子どもの成長を見守る仕組みをつくるほか、妊娠中から具体的な育児法を学んでもらって子育て不安を軽くすることなどを柱に掲げた。
事件は6月11日に発生。母親が泣きやまない長女を故意に床に落として死なせたとされる。母親は、中保健所から母子手帳の交付を受け、3カ月健診も受診。市は対応策を検討する中で「遅れはあったが行政とのかかわりを拒否しておらず、従来の取り組みで事件を防ぐのは極めて困難だった」と判断した。予防対策の目玉は、児童虐待のサインを受け止める地域ボランティアの育成。研修を受けたボランティアが、民生委員や児童委員とともに妊娠期の親や子育て世帯を見守る活動を進める。9月補正予算に盛り込んだ千数百万円でボランティアや児童・民生委員2000人の研修を実施。ボランティアは来年1月に募集する予定。また、親の産後不安を軽くすることが虐待の防止につながるとして、出産前に具体的な育児法を伝える。保健所で母子手帳を渡す際に、泣きやまない子のあやし方などを教える。オートロックのマンションでは、児童委員やボランティアの訪問など子育て支援をしやすくするために管理組合などに協力を求める方針だ。
◆平成23(2011)年10月2日 読売新聞
保護乳児の里親委託13% 昨年度 初の全国調査 26県市はゼロ
虐待や病気などで親が育てられず2010年度に全国の児童相談所が保護した0~1歳児のうち、87%が乳児院に預けられ、13%は里親へ預けられていたことが、厚生労働省の初の全国調査で明らかになった。国は特に幼い乳幼児は「里親へ委託」の方針を打ち出しているが、自治体レベルでは進んでいない実態がわかった。
同年度に全国の児童相談所が保護した0~1歳児は2110人。児童相談所を設置している47都道府県と22の政令市・主要市のうち、26県市は里親委託がゼロだった。保護した子供が377人と全国最多だった東京都は、里親委託は13人のみで、97%の364人が乳児院に預けられ、施設優先が顕著だった。一方、山梨県では85%、北海道(札幌市をのぞく)では69%が里親に委託されており、自治体間格差が大きかった。国連は近年、「特に3歳未満児の養育は家庭を基本」とする勧告を度々出している。厚労省も、養育環境が発達に及ぼす影響が大きいことから、2004年から里親委託を�推進、今春、乳幼児を中心に「原則里親」とするガイドラインをつくった。里親への委託率を10年ほどで3倍に上げる考えだ。近年、虐待で保護される子が増え、対応に追われる児童相談所では里親の支援を行う職員が不足。現在、里親登録している人は少なくないが、里親家庭での虐待などの問題の発生も懸念して、「施設優先」となっている。このため、厚労省では、来年度から全国の児童養護施設と乳児院に里親支援の専従職員を配置し、支援体制の強化に乗り出す方針だ。自治体別に新規の委託の実態を調べたのは今回が初めて。
◆平成23(2011)年10月1日 大阪日日新聞
望まぬ妊娠SOS 府が無料相談窓口
虐待の背景に「望まない妊娠」が挙がっていることなどを受け、大阪府は10月3日から、思いがけない妊娠に悩む人の気持ちに寄り添い、必要な情報や適切なサービスを紹介する相談窓口「にんしんSOS」を開設する。
厚生労働省の専門委員会で、加害者となる保護者の背景に「望まない妊娠」「妊娠健診未受診」「母子健康手帳未発行」が多いことが明らかになったことなどを受け開設。府が委託し、府立母子保健総合医療センターが運営する。産む産まないにかかわらず、「生理が遅れている」「産もうかどうか迷っているが、パートナーとは結婚できない」といった内容など、妊娠に悩む人からの相談に保健師や助産師が対応。適切な医療、福祉機関やサービスの紹介などを行う。秘密は厳守し、相談費用は無料。府内在住者が対象。ホームページ(http://www.ninshinsos.com/)で情報提供を行い、メール相談も受け付ける。電話は0725(51)7778。対応時間は月~金曜日(祝日除く)の午前10時~午後4時。
◆平成23(2011)年10月1日 中国新聞 朝刊
小中生22人どこへ 広島県内に住民登録 1年以上通学せず 虐待の恐れも
広島県内に住民登録していながら1年以上通学せず居場所も分からない小中学生(居所不明児)が22人(5月現在)いることが、30日までに分かった。昨夏の大阪市での幼児餓死事件を受け、文部科学省が全国の市町村教委に報告基準の順守を求めたためで、報告漏れがあった前年の1人から大幅に増えた。家庭内暴力にさらされたケースもあり、専門家は実態把握を訴えている。
文科省の学校基本調査(速報値)によると、全国でも居所不明児は1183人と昨年の3・6倍に上った。中国地方5県は計42人で27人増えた。広島県の内訳は小学生13人、中学生9人。市町別は広島市18人(前年0人)、府中市3人(同0人)、北広島町1人(同1人)。広島、府中両市は居所不明児の存在をつかんでいたが、昨年は報告していなかった。市町村教委は住民基本台帳で入学前の子どもを把握し、名簿を作成。その後、1年以上所在が分からなくなると名簿から削除し、別の名簿に記載して国に報告する。ところが、手続きを定めた国の通達は約50年前と古く、全国的に運用があいまいになっていた。広島市教委は昨年まで、在学中に居所不明になった場合だけを報告。入学時から一度も学校に来ないケースは報告から漏れていた。広島県内の小3男児は入学前、保育園から米国人の母親が男児を連れ帰り、行方不明に。母子で日本を出国したことまで分かったが、「それ以上は追跡のしようがない」(該当の教委)。父親の暴力から逃れるため母親と近畿地方に転居した深刻な例もあった。比治山大短期大学部の森修也教授(社会福祉学)は調査結果について「学校に通えない上、医療を受けられず、命の危険にさらされている恐れもある。正確な情報を関係機関が共有し、連携を強めるべきだ」とする。
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