◆平成23(2011)年11月29日 産経新聞
虐待防止へ家庭訪問 江東区「見守る目増やす」
児童虐待を予防するため、江東区は12月上旬にも区が養成したボランティア19人が、保護対象の子供がいる家庭を訪問し、日常生活で必要な支援を始める。子供の支援を対象にしたボランティアの訪問事業は、23区初の試み。密室でエスカレートしがちな虐待を、より多くの人が関与し近所で声を掛け合って防止するのが狙い。
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訪問するのは、10~70代の民生・児童委員、学生、育児ボランティア。3カ月にわたる講習で臨床心理や医療、虐待事例と対応などを学んだ27人のうち、19人が、区独自のボランティア制度「こども支援士」として登録した。支援対象となるのは、区の児童虐待ホットライン(南砂子ども家庭支援センター)がこれまで対応した世帯で、継続的な支援が必要だと判定された子供や妊婦がいる家庭。現在、要支援家庭と支援士の“相性”を模索する段階へこぎ着け、来月中にも本格始動する。中学生以下の子供に対しては、買い物、調理、掃除などの指導や学習、遊び、相談などの支援をする。妊婦には授乳、食事介助、おむつ交換、入浴指導などの育児支援を実施する。区は「支援士は講習で学んだ知識を生かし、子供たちには自立する術を身につけてほしい」としている。訪問は週1回を目安に年48回まで。午前7時から午後10時まで、1回3時間。利用料は無料(支援士の報酬は1回3500円)。平成23年度の事業予算額は約350万円で、来年度以降も継続を計画している。山崎孝明区長は「虐待にだれも気づかなかったという事態を避けるためにも、子供を見守る目を地域に増やしたい」と話している。
◆平成23(2011)年11月28日 中日新聞
【愛知】県警への虐待通報を強化 名古屋市、通報基準を明文化へ
名古屋市名東区で中学2年生の男子が母親の交際相手に暴行され、死亡した事件を受け、市は28日、虐待事案の県警への通報基準を作成し、情報共有体制を強化する考えを明らかにした。定例市議会で減税日本の湯川栄光議員(南区)の個人質問に答えた。
虐待事案の通報基準は、県警が2009年2月、市、県との実務担当者会議で(1)病院に搬送されたり、骨折以上のけがをしたりした(2)過去に身体的虐待で取り扱った児童を再度、扱った(3)性的虐待の疑いがある-などを提案した。しかし、市は「事案によって条件が違い、一律に警察へ通報しては親との信頼関係を損ない、事態を悪化させる可能性がある」などと主張、合意に至らなかった。名東区の事件は(2)に当たったが、市中央児童相談所は県警には伝えず、結果的に最悪の事態を招いた。子ども青少年局の下田一幸局長は「力不足を痛感している。すぐに事件化するケースではないと判断したが、今後は積極的に警察に情報提供したい」と答弁した。市によると、通報した事案を無条件で事件化しないことなどを県警と申し合わせた上で09年の県警案をベースに通報基準を明文化する方針。
下田局長は公明の小林祥子議員(名東区)の質問にも答え、虐待した親に対する更生プログラムを作成する考えも示した。
◆平成23(2011)年11月29日 読売新聞
[施設の子の自立](下)退所後の就労・住居支援(連載)
◇民間団体 専門機関紹介や貸し付け
児童養護施設などを退所後、社会に適応できず、仕事を失って生活に行き詰まる人は多い。肉親に頼れない施設退所者への公的支援が十分でない中、民間では自立に向けた新しい取り組みが始まっている。
「ここは何でも相談できる。僕の生活に目を光らせてくれるのでとても安心」。東京都小金井市にある施設退所者向けの相談機関「ゆずりは」で、コウイチさん(仮名)が笑顔を見せた。幼い頃、両親の暴力、暴言に苦しめられた。家出や万引きを繰り返し、小学6年生で都内の児童自立支援施設(表参照)へ。一度は親元へ戻り、高校に入ったが4か月で中退した。今度は都内の自立援助ホームに入所し、ビル清掃や防水工事などの職に就いたものの、長続きしない。2年前、自立援助ホームも退所してアパート暮らしを始めたが、家賃が払えなくなって退去した。「きちんとした生活をしたい」と強く思った時は既に20歳になっていた。児童養護施設は原則18歳になるまで、自立援助ホームも20歳になるまでしか利用できない。今年5月、なじみの自立援助ホームの職員から、ゆずりはを紹介された。ゆずりはは、社会福祉法人「子供の家」(東京都清瀬市)が今年4月、施設退所者の支援を目的に設立した。児童福祉司や社会福祉士の資格を持つ職員が無料で相談に乗り、必要があれば専門機関につなぐ。運営費用は全額、法人負担だ。コウイチさんもアドバイスを受け、国の制度を利用し、ビジネスマナーなどを学んでいる。アパート契約でも支援を受け、ゆずりはで掃除のアルバイトもさせてもらっている。金銭管理も頼み、毎週、生活費をもらう形で浪費を防ぐ。「動物が好きなのでペットショップで働きたい。今度こそ長く」と希望が芽生えた。
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千葉県内でも支援の動きがある。県内の児童養護施設など7施設は今年7月、協同組合「千葉県若人自立支援機構」を設立した。出資金と寄付金により、生活に困った30歳までの施設退所者に安価なアパートを紹介、貸し付けも行う。
千葉市に住む関口晴香さん(19)は昨年、高校を出て児童養護施設を退所、社員寮のある飲食店に就職した。しかし、週休2日は有名無実で、サービス残業を含めて1日13時間も働いた。「辞めたら施設の人に顔向けできない」と我慢したが、体調を崩して入院。退職すると、住む部屋も失った。出身施設の紹介で、同機構が用意した家電付きアパートに月2万4000円で入居。職業訓練でパソコンを習う。「ブラインドタッチが出来るようになった」とうれしそうだ。
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多くの若者と異なり、施設で育った子どもたちは18歳や20歳で自立を迫られる。だが、準備や支援が不十分なまま巣立つケースも目立つ。ゆずりはの高橋亜美所長は「施設退所後、ホームレスになったり、犯罪や自殺に走ったりする例は多い」と明かす。悲劇を防ぐため、厚生労働省は昨年度、都道府県と折半で補助事業を創設。東京都、大阪府、鳥取県などで民間団体が退所者向けの相談などを行っているが、全国的な広がりはこれからだ。淑徳大学の柏女霊峰教授(児童福祉)は「社会で挫折しても帰る場所がない退所者を継続して支えるには、人員や財源を含めた仕組み作りが必要だ」と指摘している。
◆平成23(2011)年11月29日 朝日新聞 東京夕刊
「里親になりたい」急増 東京、東日本大震災後に2倍
里親になろうとする人が増えている。東日本大震災で、絆や家族の大切さを実感した人が多かったためか、東京都では登録希望者が例年と比べて倍増した。すそ野が広がることを関係者は歓迎しつつ、よりよい制度を模索している。
「震災孤児を引き取りたい。どうすれば里親になれますか」。震災後、都の児童相談センターにはこんな電話が相次いだ。「タイガーマスクのように役に立ちたくて」と語る人もいた。厚生労働省によると被災3県の震災孤児は240人(10月末現在)で、ほとんどが親戚と暮らす。また、子どもの里親への委託は都道府県ごとに行うため、東京都で対象となるのは震災孤児ではない。里子となるのは、虐待や貧困、親の病気などさまざまな理由で家族と暮らせない子どもたちが大半で、養育には覚悟が必要になる。こうした説明を聞いた上で認定前研修に参加したのは、問い合わせた人の約1割。それでも、4月からの半年間で計4日間の研修を受けたのは都全体で45人に上った。例年のほぼ倍だ。
他府県でも、問い合わせは増えている。「もう人生後半。子育ても一段落したし、社会貢献というか、チャレンジしてみよう、って」。7月に里親認定された千葉県流山市の天農(あまの)秀樹さん(49)は動機をこう語る。25年以上続けた会社勤めを4月で辞め、社会福祉の専門学校へ通い始めた。「子どもの心の傷を考えると、知識と覚悟が必要」。当面は預貯金で暮らし、卒業後は福祉分野で働きながら里子を育てたい、という。千葉市の西田弘次さん(46)は妻の夕子さん(39)と10月に研修を受講した。2歳の娘もいるが、「個と個が集い家族になる。必ずしも血のつながりは必要ないんじゃないかな」と話す。一方で、里親経験者の集いを通じて、制度の危うさも感じるようになった。「登録は簡単だが、児童相談所のフォローは少ない。子どもの命を預かるのに、本人まかせが多い」と西田さんは指摘する。
○難しい養育、支援が課題
里親の要件は、心身が健全であることや経済的に困窮していないことなどで、資格はいらない。都道府県の研修や家庭訪問調査を受けた後、審議会で了承されれば認定される。なり手が慢性的に不足していることもあり、関係者は「養育の難しさに比べると認定は緩い」と認める。養護が必要な子どもは、虐待を受けていたり、障害があったりする割合が年々増えている。子どもの成長過程や個別の事情を知ることが里親には重要だが、児童相談所では担当職員の異動により詳しい情報が引き継がれないことも多い。里親同士でつながり、支え合っているのが現状だ。全国児童相談所所長会が調べたところ、昨年4月からの8カ月間で、里親との関係悪化など「不調」を理由に児童養護施設へ戻ったり、別の里親家庭へ移ったりした子どもは計156人。委託解除総数の4分の1に上った。「乳児院や施設のスタッフに里子の過去の様子を聞くだけでもほっとする。子どもに関わったみんなで気軽に集う場があれば」。東京都東村山市の大木尚子さん(65)はこう話す。24年間にわたり10人の里子を育ててきたが、子どもを迎えるたびに新米の親となり、壁に突き当たるという。それでも続けるのは「互いにぶつかりながらも認め合って、絆が深まっていく。大切な家族が増えて、まわりの世界が広がっていく」と感じるからだ。「支える手が多いほど、壁を乗り越える力になる。たくさんの人が安心して里親になれるような、支援態勢を築いてほしい」
◇継続し支える仕組みが必要
宮島清・日本社会事業大准教授(児童福祉)の話 里親への関心が高まっているのは喜ばしいが、支援がないままで委託を増やすと、子どもと里親家庭の両方を傷つけてしまう恐れがある。里親の性格や子どもとの関係を丁寧に見守ることができる専門職員を児童相談所などに増やし、継続して支える仕組みが必要だ。
◇キーワード <里親制度>
児童福祉法に基づき、親と暮らせない子どもの養育を、都道府県が認定した別の家庭に委託する制度。厚生労働省によると、昨年3月末現在の登録里親数は7180人。児童養護施設などに入所している子どもが全国で3万3562人いるのに対し、里子は3836人と1割に過ぎず、欧米(米国約8割、英国6割など)と比べると割合が極端に低い。
◆平成23(2011)年11月27日 読売新聞
[夜明けを信じて](5) 母親 身近に相談できる場を(連載)=福岡
久留米市で昨年、当時5歳の女児が実母から虐待を受けて亡くなった。手足を縛って洗濯機に入れるなど、母親の常軌を逸した行動の末の悲劇だった。ただ、母親は市役所などへSOSを発信していた。「周囲に育児の相談相手がいない」「子どもの気持ちがわからない」。その訴えは、決して特別なものではなかった。事件後、同市の担当者や地域の民生委員らでつくる協議会では、たびたび事件のことが取り上げられた。「悩む母親に、地域で手をさしのべられないか」。声は上がるが、具体的な取り組みはまだ始まっていない。
厚生労働省によると、2010年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待5万5154件のうち、虐待した人は実母が60・6%。虐待を受けるのは0歳児~小学校就学前までの子どもが43・8%を占める。行政や地域は、母親をどう支えられるのか。
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福岡市城南区の田島公民館は毎週水曜日の午前中、乳幼児を連れた母親でにぎわう。平均30組が利用する子育てサロン「さくらんぼ」。現役のママだけではなく、子育ての先輩も顔を出す。「どんな母親だって、悩んだり行き詰まったりすることがあるんです」。サロンのサポート役を務める民生委員の宮野みはるさん(61)は、実感を込めて言う。ある時、1歳半ぐらいの子を連れて来た母親は、「夜泣きがひどいんです」と訴えた。ぐったりと座り込み、表情も暗い。「うちの子もそうだった。時期が来ればなくなるから大丈夫」。宮野さんは優しく声を掛けた。核家族化が進み、身近に相談相手がいない母親が増えたと感じている。カッとなると子どもに罵声(ばせい)を浴びせたり、頭をたたいたりする親も見た。大事なことは「うちの場合はね」とアドバイスすることだという。「子育てに正解はないから」
お年寄りの見守りが中心だった民生委員の仕事。しかし、最近は母子の支援が欠かせなくなった。サロンに参加して若い母親と顔見知りになり、地域での声かけにつなげる。「『気になる人がいる』と教えてくれる人も出てきた」。宮野さんは手応えを感じている。
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「気分が落ち込むことがありますか」「育児についての相談相手はいますか」。同市中央区の保健福祉センター(中央保健所)が今年7月から、4か月健診の時に使っている問診票には、一見子どもの発育とは関係ないような質問項目が並ぶ。保健所は、健診を通じて地区内に住むほぼすべての母子にかかわることができる。同区では、市のモデル事業で、従来の1・5倍の項目を盛り込んだ問診票を導入。記入を見て、悩みを抱える母親を保健師が訪問し、話を聞くなど、きめ細かな対応を取るためだ。「出産後で体がきついけど、夫は分かってくれない」。周囲にはささいなことのようにとられがちな悩みも、打ち明ければすっきりした表情になるという。同センターの石井美栄所長(51)は言う。「子育ては一人ではできないので、頼っていいんだよ、と伝えたい」(おわり)〈代表県版採録〉