この本の冒頭にあるが2003年5月ストックホルムにて「入所型養護には児童に対してマイナス面が多いので、脱施設型に児童養護の形態を変える」といった趣旨の宣言が出された。
しかし未だに日本では、施設型が主流である。では、世界では2003年以降社会的養護が浸透したのだろうか。
結論から言うと「NO」である。
この本では、ヨーロッパ・中東・アフリカ・アジア・アメリカ・オーストラリアと幅広く詳細な児童養護施設の歴史と現状が書かれている。ただ、経済の発展=都市化=核家族=子育てのロカール化崩壊=要保護児童の増加という図式が出てくる。もしくは、ブラジルなどは、親の貧困ゆえに要保護を親が要請するなど経済の発展をたどろうが、貧困だろうが、親が育てられない子どもはいるのである。
オーストラリアのような里親養護に傾倒していくことが望ましいと思われるが、発達障害や行動に問題がある子供たちにとって、里親制度は適していない現実が出てきている。
また、文化的背景も大きく影響する。経済発展したボツワナでは政府が過干渉になるのに市民が相反する感情を抱いている。韓国でも儒教の家族制度礼賛により2000年まで児童福祉に関して立法化されなかった。
さらに、僕が一番児童養護施設問題で力をいれている教育問題も万国共通だ。教育問題は少なくとも一部は家庭外養護自体の機能の一つであって、家庭が最善であっても、家庭から子どもを引き離すことは教育の中断につながる。
施設職員の流動性の高さや、専門性の低さも世界共通。さらに驚いたことにアメリカでは施設職員必要資格や人員配置も法律で定められていない。
それでも脱施設へ変化を求めるルーマニアでは里親養護が1997年〜2002年に3倍以上になった。その結果、2000年から2003年で施設型に変わる公的養護サービスが5倍に増えた。ブラジルでも保育園を家庭外児童養護に使えるようになり、地域基盤プログラムが増えてきた。アメリカでも施設ではない家庭的治療養護モデルが推奨され始めた。
では、これから世界の児童養護はどの方向へ向かうのだろうか。それは「入所型養護とその他の家庭外養護および家庭養護の選択肢の中間の最善の混合型を目指すであろう」と著者は予測する。
日本も入所型児童養護がなくなることは今後100年ないだろう。それが子どものためでもある。入所型が合っている、里親型が合っているなど様々な形態によって子どもたちが健やかに育つルートが切り開かれることが理想だからである。
専門家の育成も急務だが、専門家以外の地域での子供たちの受け入れも急務である。そのためには、国・地域・市民の連携が必要不可欠である。もちろん、グローバル経済など世界情勢の変化が社会的養護にも影響を与えるだろう。それでも子どもたちは生まれる場所を選べないという基本を念頭に置くことによって、社会的擁護の新しい形ができればと思っている。
本書は専門家向けである。ただ、日本の児童養護に不満を持つ人には俯瞰的視座を与えるので必読の一冊だ。また、児童養護関係者以外でも読むことによって、社会的擁護の必要性を感じると思う。
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