本書は専門家向けの本と思うかもしれません。しかし、児童福祉に関わる人たちは必見です。大学生はこの先達達の援助の技からメタ認知的に何かを引き出して欲しいです。
特に元大阪市中央児童相談所 所長の津崎哲郎氏のインタビューは必見である。
「相談の対象者がいて、その人に援助をしようとしたとき、今の仕組みの中では常に限界があrじゃないですか。その部分を方っておいて、つまり仕組みを変えようとせず技術論だけに目を向け、自分の援助技術を高める言葉会に気を取られていても解決しないんですもんね」P.274
「(虐待の)通告増加を見越してその前に増員し、体制を充実させて手ぐすね引いて待つなんて絶対できない。だから、一次はしんどくなるだろうけども、それが新たな児童相談所に変わっていくための踏み台となる。そこは我慢しないといけないという思いでした。実際上も、法律ができて通告が急増し、児童相談所はパンク状態に大きく変わっていきましたよね」・「混乱状態にならないと新たな体制づくりはできない」P.286
これらの言葉は重い。児童養護の世界はずっと変わってこなかった。大阪は、全国に先駆けて1989年に児童虐待紀要も児童相談所が作っている。しかし、パンクにならないと法律は変わらないだろうと津崎氏は経験から感じたのである。また、専門職ゆえの弱さをこう説明する。
「従来(児童相談所職員)みんな失敗しているのは自分の言い分だけワーっと言って、対立になるんです。そうなると行政の方は『何を言ってるんだ、行政のルールもわからずに』と感じます。ですからうまく進めるためには、相手に教えてもらうという姿勢が必要なんです。そういう謙虚さと主張すべきこととの兼ね合いを探りながらやっていくことが大切な気がします。要はやり方。相手の懐に入ってうまく言い分を通すと言うことですね。専門家が力を付けるとね、下手すると行政のトップが『使いにくい』と言って飛ばしてしまうことがある。私は飛ばされずにタイアップしてやりました」
この言葉を日和見と見る向きもあるだろう。しかし、児童養護の世界を変えるには現場と上の妥協点を見つけるのが大事なのだ。ビジネスでも無理であろう契約もうまく相手の話を聞きながら自己主張をしていきブレーキをかけることで成立することがある。
そして児童福祉司としてある程度の期間子どもの成長プロセスを見続けないとわからないことがあると述べている。児童福祉司の多くはその時点で起こっている問題だけに関わっているから「成長のプロセス」が十分に見えない。そこで、週末里親などを継続すれば子どもの成長の姿が比較的見えてくる。
津崎氏は里親経験をしている。しかも実子がいながらの里親をやって、里親の大変さを知ったという。
児童福祉司は最近の通報件数の多さにもかかわらず「もっと働け」とステロタイプな労働強制を受ける。しかし、そのように嘆くのではなく「子どもの代弁者」であることを忘れてはならない。忘れたら、それは自己保身の悪循環に陥る。
津崎氏は「たとえ一時的に法を犯してでも、子どもを守るための行動出れば、必ず正義は通じるのだ」という強い信念を持っている。
もちろん、これこそが児童相談所職員の燃え尽きの原因でもあると思う。このような過度な期待が、新人児童福祉司を追い詰める。
だからこそ真摯に国民全体で考えなければならない。里親制度も親族里親制度を虐待の場合にも適用すべきなど東人本大震災後だからこそ、震災遺児問題と一緒に考えて欲しい。
また、児童福祉の世界で働こうと思っている高校生・大学生は、新しい児童福祉の形の構築を考えて欲しい。津崎氏以外にもたくさんの児童福祉の先達のインタビューが満載だが、「グレーゾーンをうまく使うソーシャルワーク」を学んで欲しい。きれい事で人の命が救えないのが児童福祉の世界ではたくさんある。
子どもに関わるNPO法人の方も必読の書である。
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