この本は、発達障害を一から理解できる本ではない。 特に前半の部分で生物学的な話が続くがミラーニューロンの話などなんの説明もなく出てくる。
しかし、後半の杉山氏の臨床事例は圧巻である。 多分、特にEMDRの実践は興味深かった。 僕は、十年前にこの治療方法をPTSDに応用できるということで、治療方法に詳しいと言われる 精神科医にも会ったが、眼球運動を使って過去の辛い記憶を心の奥底から引き剥がすという難易度の高い 治療法は日本の精神医療レベルで誰も実践できないだろうと言っていた。
確かに、杉山氏も相当な鍛錬をしたと思う。さらに、全ての発達障害・精神疾患系のトラウマに有効ではない。 しかし、心的外傷によって発達障害の症状がひどくなるのは事実である。 ならば、その心の大きな傷を取り除くことによって彼らの未来に光明が差し込むなら、 もう少し積極的に取り込むべきだろう。 また、認知行動療法も万能ではないとはいえ、もっと広まっていいと思う。
杉山氏の論の進め方は臨床経験から来るので生々しい。もちろん、発達障害という名前を乱用させたとの指摘もあるのは知っている。 ただし、発達障害の軸を入れると理解しやすくなる症例が多いのである。 発達障害の素因は誰もが持っている。それを杉山氏は「発達凸凹」と呼んでいる。 この素因が多因子になった場合、生活に支障が著しく出る・出たと思われる場合は専門家の診察を速やかに受けるべきである。
もちろん、児童精神科医も少なく、トレーニングが十分でない臨床家も多い。でもだからこそ精神医療に依存し過ぎずに発達障害の子どもや大人を支える支援作りができる時期でもある。 発達障害は、様々な症状が程度もかなり振り幅が大きいので、診断もまちまちである。発達障害でも早期(就学前に)介入すれば、社会性を維持し続けている子どもをこの十年で何人も見て行きた。
それと同時に発達障害や自閉症の日本語の表記から想起される誤ったイメージこそが、当事者を苦しめてしまう現実もある。 ある程度簡単な発達障害の本を5冊程度読んでからこの本を読むことをオススメする。 特に僕が「記憶の巻戻り」と呼んでいるタイムスリップ現象は発達障害でも知られていないがよくある現象なので熟読して欲しいと思う。
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